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道北の森林システム ・ センサスでたどる10年の推移

by north by north 編集部

下川町90.6%、道北80%超、北海道71%、日本67%、世界31%。森林率の4軸で見ると、道北は日本のなかでも特異な森林集積地。林野庁の森林資源現況調査と道庁の林業統計から、過去10年の人工林・天然林・FSC認証・林業従事者の推移を読み解き、次の10年の論点を整理する。

下川町の森林率は 90.6%。道北 (上川北部 ・ 留萌内陸 ・ 宗谷山地) 平均でも 80% を超える。日本全体の 67.4%、世界平均の 31% と並べると、道北が「日本のなかの北方林ベルト」であることが数字でわかる。本稿では林野庁 ・ 北海道庁の公的統計と森林計画制度を元に、道北の森林システムが過去 10 年でどう変わってきたかを 4 つの軸 (面積 / 樹種構成 / 認証 / 担い手) で整理する。全道スケールでの比較データは dohokuhub の「森林率の4軸比較」 を、生物多様性の長期推移は dohokuhub の「道内森林の生物多様性」 を併せて参照されたい。

1. 森林率の 4 軸で道北を位置づける

スケール森林率出典
世界平均 (2020)31.0%FAO Global Forest Resources Assessment
日本67.4%林野庁 森林資源の現況
北海道71.0%北海道 林務局 統計
道北 (上川北部 + 留萌内陸 + 宗谷山地)80% 超林野庁集計
下川町90.6%下川町 森林整備計画

日本は世界平均の 2 倍超の森林ストックを持つ国だが、そのなかでも道北はさらに 1.5 倍近い集積。「道北 = 森林地」というイメージは正しいものの、同じ道北でも上川南端の東神楽町 (35.9%) と下川町 (90.6%) では森林率に 2.5 倍の開きがある。地理 ・ 標高 ・ 気候条件で植林経済が成立する場所と、平野部での農地利用が優先される場所が並存する構造になっている。

2. 過去 10 年の推移

2.1 面積はほぼ横ばい、内訳は変わっている

森林面積そのものは公的統計上ほぼ横ばいだが、内訳が動いている。北海道全体でいうと、人工林の総面積は約 153 万 ha でこの 10 年大きな変動はないが、主伐 (伐採して別の林に切り替える) 面積はこの 5 年で 4 割増。育林段階から主伐 ・ 再造林段階への移行が始まっている。

2.2 担い手は 20 年で 3 割減

道北の林業産出額は 2023 年で約 120 億円 (北海道全体の 40% 以上を占める) だが、林業従事者数は 20 年で 約 30% 減。1 人あたりの管理面積は拡大し、機械化と長伐期化が同時に進む過渡期にある。担い手不足は単なる「人手の話」ではなく、森林計画の更新サイクル (5 年 / 10 年) を回せるかという、システムとしての維持力の問題になりつつある (林野庁 林業労働力統計)。

2.3 FSC 認証林の浸透

下川町は 2003 年に FSC 認証を取得した日本でも初期の自治体林で、その後も 60 年循環の森林経営で全国の先行モデルになっている。道北では中川町 ・ 美深町 ・ 名寄市の市町村有林にも認証林が広がりつつあり、認証材は海外市場 ・ 国内大手建材会社の調達基準に直結することから、「認証林を持つこと」自体が地域の交渉力になり始めている (FSC ジャパン)。

2.4 鹿被害と森林更新

道北の森林システムを実務で支えるうえで避けて通れないのが、エゾシカによる若木被害。林野庁の鳥獣被害調査では、北海道の森林の鳥獣被害金額は全国の半分以上を占める年が多く、育林段階での皮剥ぎ ・ 食害が再造林の歩留まりを下げる主因になっている (林野庁 森林被害)。下川 ・ 中川では捕獲 ・ 食肉処理 ・ 流通までを地域で内製化する動きが進んでおり、north by north のメンバーである 澁谷麻斗 ・ 卜部悠人 もこの環の担い手として活動している。

3. システムとしての「森」を残す 4 つの資産

森林に投じた経営努力のうち、何が地域に残るかを 4 種類の資産で整理する。dohokuhub の 「道内森林の生物多様性」 で整理されている全道スケールの分類を、道北サイズに落とし込んだものが下記。

資産種別中身残る条件失われやすい局面
設備資産FSC 認証林 ・ 林道 ・ モニタリング機材20 年以上の継続管理 ・ 第三者監査認証取得後の更新放棄
人的資産森林官 ・ 自然ガイド ・ 狩猟者 ・ 研究者世代を跨ぐ徒弟制と給与水準確保季節雇用化 ・ 担い手の離脱
関係資産林野庁 ・ 道立林試 ・ 大学 ・ 町の協議体定期会合と共同データ基盤補助金事業期間のみの一過性連携
規範資産森林計画制度 ・ 町条例 ・ 集落協定住民の参加と改訂サイクル上位計画の形骸化

道北の森林が長期にわたって残るかどうかは、樹木そのものよりも「この 4 つの資産をどう積み上げ続けるか」で決まる。林業を「木を売る商売」と狭く定義すると、人的資産と関係資産が真っ先に劣化する。「森林システムを運営する仕事」として広く捉え直すと、観光 ・ 自然多様性データ ・ 教育 ・ アクティビティ ・ 食肉流通といった隣接領域がすべて森林維持の収益源候補になる。

4. 次の 10 年で起きること

短期 (〜2030):

  1. 主伐期に入った人工林の伐採 ・ 再造林ピーク。担い手不足のなかで再造林率をどう維持するかが各町の経営課題になる。
  2. TNFD 開示の本格化。林業 ・ 製材 ・ 建材だけでなく、調達側の大手企業が森林依存度の開示を求めるようになり、FSC 認証林のプレミアム化が進む。
  3. エゾシカ管理の制度化。捕獲数 ・ 食肉流通 ・ 担い手育成を含めた包括計画への移行。

中期 (2030〜2040):

  1. 気候変動による樹種帯の北上。RCP8.5 シナリオでは亜高山帯森林が山頂付近まで上昇し、北方型樹種の生育適地が狭まる。国立環境研究所の予測 では、大雪山の高山植生は 2100 年に生育適地がほぼ消失するとされる。
  2. 観光圧力の可視化。森林系アクティビティの参加者数を、生物多様性指標と紐づけて管理する制度設計が、自治体レベルで始まる可能性がある。

長期 (2040〜2050):

  1. 道北モデルの輸出。下川町の 60 年循環 ・ 中川町の自然観察ベース ・ 美深町のサイレント森林管理など、町ごとの実装パターンが、海外の北方林地域への参照モデルになり得る。

5. nbyn の取り組み

north by north は道北の自然と暮らしを「アクティビティとしての生き方」に翻訳する事業体。森林に関しては「歩く ・ 撮る ・ 食べる ・ 記録する」をひとつの体験として束ね、下川 ・ 中川 ・ 上川を回遊する 道北アクティビティキャラバン を毎月開催している。森林データそのものはマス向けの数字に過ぎないが、参加者が「自分の手で歩いた森と統計の数字が対応する」という体験を積むことで、抽象的な森林政策が「自分ごと」に変わる ─ それが nbyn のミディアム ・ レンジの目的だ。

最新の参加者向けレポートと次回の予定は MagazineVision を参照のこと。

さらに深く読むには

道北発の本記事は、全道スケールの分析と相互補完される。

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